いま日本のみならず世界の市民は、数年来のBSE(牛海綿状脳症)牛肉による食の安全性危機に直面したばかりでなく、さらに鳥インフルエンザ、SARSなどの人獣共通感染病の恐怖にさらされています。従来から動物由来の感染症であるサルモネラ、病原性大腸菌O-157、カンピロバクター、オウム病などの脅威も繰り返されています。BSEの発生と時を同じくしてEUや日本アジアには口蹄疫が蔓延し、EUでは一度に数百万頭もの牛が水平線を赤くするほど屠殺焼却されています。豚の病気も豚コレラ、オーエスキー病などの発生がワクチンによる防疫にもかかわらず繰り返されています。家畜の健康が蝕まれ、慢性疾病がいっそう増えているのです。また、家畜と人間の共通感染症が野生動物の罹病にも強く関連していることで同じように捕獲駆除されています。
人間の心のパニック状態から「人間の安心」を得るために何千万頭の家畜と野生動物の生命が緊急措置的に奪われているのです。まさに、人間対動物の全面戦争かのような様相から脱出することが緊急の課題です。
われわれは家畜や野生動物が病に冒されること=人間が病に冒されることを、獣医学、医学、関連研究分野の協力によって科学的に解決されなければならないと考えます。われわれはこの問題を解決するための糸口を人間の健康維持のための食の安全保障に置きました。
わが国の食の安全保障の現状の一端をみても、アメリカからの牛肉輸入の禁止に加えて、アジア諸国からの鶏肉輸入もストップし、外食産業のメニューから肉料理が消えようとしています。まさに輸入に依存する農産食品の供給体制の脆弱性があらわれたものといえます。ほんの40年前までは日本の農産食品の自給率は、供給熱量自給率でも穀物自給率でも80%前後を維持していたのです。それが今では40%と27%までに下がり続け、先進国の中でももっとも低い水準になっています。
このような事態となったのは、日本が過去半世紀にわたって、GATT(関税と貿易に関する一般協定)とWTO(世界貿易機構)の農産食品の貿易自由化ルールに従属してきたことに他なりません。われわれは、農産物の世界市場拡大をめざす多国籍穀物メジャー企業とその代弁者であるアメリカ等の輸出国政府による貿易自由化ルールは、世界の多くの市民が望むシステムではないことを、自らの行動によって示そうと思います。
本来の農業は工業のように「モノを造る」のではなく、「生物を育てる」産業であることを再確認する必要があります。生物を育てることとは、家畜の健康と福祉を実現することであり、農村地域の多様な生物と共生する農法を行うことです。しかし、この数十年間で家畜と作物土壌を機械施設のようにみなし、ケージやウィンドレス畜舎による集約的飼育や農薬・化学肥料の大量投入が行われ、農業の本質が失われてきました。
その失われた、動物にやさしく、生物多様性を保全する農業を復活させるとともに、新しい社会のニーズに応える農業の育成を目的として、われわれは以下のような基本目標を打ち立てようと思います。