1)オランダの子牛肉における家畜福祉品質ラベルの開発
オランダでは戦後農業経済が成長するにつれて生乳過剰とオス子牛生産過剰が問題となり、その解決のために脱脂粉乳による代用乳供給とそれを利用する牛乳肥育子牛肉の生産が発展してきた。2003年には3200の子牛肥育農場、73万2千頭の子牛が存在し、127万頭がと畜されている。その90%はイタリア、ドイツ、フランスなどへ輸出されている。オランダ子牛肉は香り、バラ色肉、やわらかさ等で高級品として評価されている。オランダはすでに2004年からすでに以下のようなEU子牛飼育最低基準を適用している。
EUの子牛福祉指令91/629/EEC「子牛保護のための飼育最低基準」は1991年に制定され、その後1997年改正と2003年の規則改正によって、2006年12月31日から以下のような法規制が実行されることになった。
(1)これまでは新規建設畜舎および立替畜舎だけに適用されていたが、全ての畜舎に適用されることになったこと。
(2)生後8週間後の子牛は単独囲い(ペン)で飼育してはならない(病気の子牛を除く)。
(3)子牛をグループで飼育するために体重150kg以下では最低面積1.5?、150〜220kgでは1.7?、220kg以上では1.8?でなければならない。
(但し6頭以下経営、母牛から授乳している子牛は適用外)
(4)自然光、空調・湿度・温度の適切な調整、清潔な床、子牛に傷がつかない畜舎の建材と構造でなければならない。
(5)子牛を繋いではならない。
(6)子牛の健康のために適切な栄養を与えなければならない。鉄分はヘモグロビンレベルで4.5mmol/litreを維持すること。8週〜20週令の子牛には一日50〜250gの繊維質飼料が与えられなければならない。
(7)子牛を畜舎内では一日に2回以上、外部では1回以上その健康状態を検査しなければならない。
2)有限会社(B.V.)ピーターズ農場(商標Peter’s Farm)の子牛肉WQブランドチェーン
オランダのピーターズ農場は、EUで最も大規模な子牛肉専門企業の一つであるアルプログループの系列子会社であり、グループの本社であるアルプロは子牛の代用乳飼料生産会社として1963年に設立された。アルプロは、傘下の農場へ代用乳飼料、配合飼料を供給するとともに、素牛導入、飼育技術・畜舎改善・環境保全・健康管理・衛生管理・経営技術などのノウハウ提供事業、子牛肉販売事業を統合的に経営する垂直的インテグレーション企業である。現在はアルプロによって統合化された5つ会社で、すなわちアルプロ会社本体とピーターズ農場、ESA(屠畜場経営会社)、ESA食品(食肉加工・パッキング・販売会社)、アルプロブリーディング(繁殖用飼料会社)構成されている。グループ全体の従業員は300人、年間販売額は500億円(2001年)である。このようなアルプログループの子牛肉供給の95%が40カ国へ輸出され国内出荷の割合は少ないが、オランダ国内の消費量の25%、EU市場の6%を占めている。アルプロは年間子牛用飼料10万トン、混合穀物飼料2.3万トンを生産している。現在アルプロと契約している子牛農場は350農場を越えている。
ピーターズ農場の5つの経営規範として、高品質、動物福祉、トレーサビリティ、食品安全、情報公開がある。高い品質と独特な風味は子牛が受ける福祉状態と行動の自由度、休息の水準によって実現されるという認識が基本になっているからである。
独立した科学研究機関である食味研究センター(CSO)による消費調査では、ピーターズ農場産の子牛肉は標準的な子牛肉より肉質のキメが細やかで、柔らかく、ジューシーで、赤肉であり、香りも良いという高い評価が与えられている。また、高い栄養価とナトリウムが少なく、消化しやすいという評価もなされている。
ピ−ターズ農場有限会社は42組合員で構成されており、家畜に優しい子牛肉生産システムに賛同して参加している。その全農場には常時1000頭の子牛が飼育され、家族農場一戸当たりでは平均60頭(40〜80頭)が肥育されている。消費者へは家畜福祉基準などを説明するよりも飼育現場をインターネットライブ映像によって見せることや、トレーサビリティシステムによって情報公開している。
ピーターズ農場の家畜に優しい畜舎システムの特徴は、子牛が歩く、立つ、横臥する、遊ぶ、寝ることを自由に出来る構造になっていることである。とくに遊技用に天井からつり下げられたボールや自動車タイヤが設置され、また自分で身体をこするブラシが壁に付けれれている。給餌室に入るとコンピューターが子牛の耳標に内蔵されているチップ情報を読み取り、必要なだけの餌が与えられる。子牛はこのような環境の中で自分のバイオリズムを保つことができるのである。そのシステムによる情報とコンピューターに映し出される畜舎内のリアルタイム映像によって飼育管理がきめ細かくかつ容易に行われるようになっている。
3)Swedish Meats
スウェディシュミート・グループは家畜福祉の経営政策を最優先にしているユニークな企業として知られている。スウェーデン最大の協同組合企業で、22500人のスウェーデン農業者が出資者であり18と畜場を経営し、肉牛24万頭、子牛1.8万頭、羊15万頭、肥育豚190万頭、雌豚7万頭をと畜する最大の食肉企業である。グループ全体で従業員数が4700人、収益は1560億円に上っている。
スウェディシュミートのスコーン(SCAN)・ブランドは高い品質、環境保全、家畜福祉を農場からと畜場まで保証するチェーンブランドである。その管理システムとしてBRC(英国小売業協会)規格を採用し、高いグレードとして評価されている。そのチェーンに参加するためにすべての農業者は豚の家畜福祉の最低限遵守基準・ボース(BAS)を遵守することが求められている。このBOSは国の法令基準に匹敵するものであり、それ以上のレベルとしてBIS,BISプラスが設けられている。家畜福祉専任の獣医師マネージャーを置いて、家畜福祉をグループの品質管理システムの一要素としているのである。
4)NGOによる家畜福祉の取り組み
(1)Soil Association(土壌協会)の活動と報告
イギリスで最も古い歴史を持つ有機農業団体であるソイル・アソシエイション(土壌協会)は、有機農業や有機畜産に関する普及活動や関連会社による有機食品の認証などをはじめ様々な活動を行っている。そのソイル・アソシエイションが2006年「有機市場に関する報告」を発表した。アニマルウェルフェアは有機畜産の中で重要な位置を占めている。そこでこの報告書の中から、イギリスにおける有機畜産物の市場動向と主な品目を取り上げる。イギリスの有機食品市場は依然順調である。有機畜産は特に成長著しい部門であるが、食肉においては輸入品との競合が起きている。
イギリスの牛肉市場は安価な輸入牛肉に押され気味であり、有機牛肉においてもイギリス最大手スーパーのテスコは、アルゼンチンから安価な有機牛肉を輸入しているものの、有機に関しては他のスーパーは国内産を志向していることを明らかにしている。牛肉に関しては、BSE発生以降、政府の農業政策に左右される側面が大きく、特にBSE関連の政策と単一支払い政策が大きいとしている。有機畜産に関してはブリストル大学と連携して家畜福祉の基準を定めており、定期的な検査によって水準を維持向上させている。
(2)RSPCAによるフリーダムフードの普及
フリーダムフードは、イギリスで最も古い動物保護団体RSPCAによって、家畜のアニマルウェルフェアの改善のために消費者に理解されやすい食品ラベルとして1994年に開発され、フリーダムフード株式会社によって運営されている。フリーダムフードのラベル表示のある食品は鶏肉、豚、牛肉等の素材そのものだけではなく、ハムなどの加工品も販売されており、イギリスでは消費者がほとんどの大手スーパーで購入できる非常に一般的な食品と変化した。RSPCAが実施したオンライン消費者調査によれば、消費者の認知度もこの2年で22%上昇しており、最も信頼できるブランドとの評価も得ている。また、フリーダムフードのような家畜福祉に配慮した食品に対して消費者は通常の食品より10%高い価格を支払ってもよいと回答している。
(3)CIWFによる「スーパーマーケットの家畜福祉食品のマーケティング調査2005-2006」
英国のNGOであるCIWF(Compassion in World Farming Trust)は2001年よりスーパーマーケットを対象とした家畜福祉に関する調査「スーパーマーケットと家畜福祉基準―基準の向上に向けて」を継続しており、2006年10月には、最新の調査結果である2005‐2006年版を発表した。それによるとスーパーマーケットでは放牧卵フリーレンジ卵の販売が主流となりつつあるものの、依然、豚や食用鶏そして養殖魚のウェルフェアについてはまだまだ改善の必要があるとしている。特に豚のと畜場への輸送時間は短縮されなければならないとしている。
イギリスのスーパーでは、フリーレンジ卵の取り扱いが急速に進行しつつあり、すでにほとんどのスーパーで卵の売り上げの50%を超えているため、CIWFは採卵鶏のウェルフェアの改善には、スーパーマーケットは多大な貢献をしていると評価している。なかでも、マークス&スペンサー(M&S)はイギリスのスーパーマーケットで初めて取り扱っている卵類を、卵も使用したケーキや菓子類そして調理済み食品など全てにフリーレンジだけを飼養するという画期的な試みを実践している初めてのスーパーになった。
今回の調査では、はウエイトローズをもっとも高い家畜福祉を達成しているスーパーとし、僅差でM&Sを評価しており、コープは家畜福祉に関して大幅な改善が見られたとし、テスコやセインズベリーもトップ5にランキングされるスーパーと位置づけている。いずれにしろ、イギリスの家畜福祉向上にはスーパー取り組み状況が大きな影響を与えていると考えられる。
5)アニマルウェルフェア総合評価法開発
評価法開発はWQプロジェクトと略称されるが、そこには13カ国、40の大学・研究所からの150人の科学者が参加し、採卵鶏、ブロイラー、肉牛、搾乳牛、肥育豚、水牛の基準を作ることとなっている。WQプロジェクトには、最近、チリ、ウルグアイ、ブラジル、メキシコの南米4カ国が新たに追加参加している。そしてそれら4カ国にEUから4,500万ユーロの研究費が流れ、各国からも同額の研究費がつぎ込まれ、そこでの研究費は8,000-9,000万ユーロに上る。
チームリーダーはEUではアニマルウェルフェア自体を畜産物の本質的価値として評価しており、健康や畜産物の本質的価値へ通じる手段として考えているわけではなく、従って家畜の健康という概念に包括されるべきものではないことを強調している。この視点とそれにそった研究はマーケットの要請に対応したもので、従来のアニマルウェルフェア研究と大きく異なる点である。そしてマーケットは手段基準(飼育面積などの基準)だけでは不十分と考えており、家畜の反応・状態基準こそ重要であると認識している。それらを意識した総合評価法開発がターゲットである。最終的にはWQラベルも任意ラベルとなるだけで、先に紹介したRSPCAのFreedom Food認証とかわりはなく、選ぶのは農家であり、消費者である。
アニマルウェルフェア総合評価法は本年5月のThe 2nd Stakeholder Conference of the Welfare Quality? Projectで公表予定であるが、健康性、栄養、快適性、行動が測定項目であり、合計20-35のパラメーターで測定するというのがプロトタイプのようである。プロトタイプ洗練のため、初期バージョンが現在様々な国、様々な畜種を通して600農場に適用されている。そして、パラメーター間の相関をとり、相関の高いものをまとめる作業が行われるという。20-35パラメーターでは調査に時間がかかりすぎるため、さらに項目を少なくしたいとのことである。4つの測定項目は独立して評価され、それぞれの測定項目について基準点を作り、ベンチマークとして利用させるようである。基準点を基本に、最終的に1,2,3,4,5スターのようなラベル化を考えている。
同時にオランダの畜産団体は自主規制を検討している。酪農機構、酪農家同盟、酪農品質協会、家畜健康部局の専門委員であり、乳牛飼養の品質保証システムの構築を担当しているProf. Jos H. M. Metzと会談した。基本的発想は、「福祉とは家畜の生活の質」であり、「動物の生物学的要求の状態に基づいている」と定義し、現場評価法を開発している。生物学的要求として、摂食、飲水、呼吸、排泄、休息、温度調節、探査、運動、身繕い、社会性、生殖、健康、安全の13をあげている。各項目について、目的とする定義条項を確認し、その管理基準を定義し、管理点(具体的調査法)を明らかにする。例えば摂食に関しては、定義条項は空腹、摂食行動、健康であり、管理基準は摂食行動の保証そしてボディーコンディションであり、管理点はボディーコンディションスコアと給餌法ならびに給餌スペースである。摂食、休息、運動に関して、これを実際のフリーストール農家で、家畜の状態に関しては獣医が、施設に関しては技術者が調査し、管理点評価の調査者間の再現性、調査者内での再現性を明らかにすべく調整しているという。農家にわかりやすく、農家のインセンティブを刺激する基準にする。
アニマルウェルフェアの世界展開の1つが、WQラベルをEUへ畜産物を輸出しようとしている国も巻き込んで作成することで行われていることが明らかになった。また、WQラベル作成はマーケットに主導されていること、その中で農業者は自主規制システム開発を目指していることが明らかになった。任意団体の認証ラベル、世界共通のWQラベル、農民団体の自主規制ラベルが並立する時代が来ると予想される。
6)アニマルウェルフェア生産方式開発
(1)Lloyd Maunder
イギリスにおいて、近隣のブロイラー農家を傘下に置くLloyd Maunder 社はFreedom Food生産も手がけている。RSPCA基準を農家に教育し、その認証を受けさせ、独自ラベルでスーパーマーケットに供給している。有機、放牧、福祉、慣行の4種のブロイラー生産を指揮し、販売している。価格は飼育面積と飼育期間に大きく依存していることを示し、全てを食べてみてもらい、価格と物を考え選択してもらいたいとのパンフレットを出している。RSPCAの査察時間は2〜3時間であるという。
まず1週齢のヒナがいるブロイラー農家(14,000羽/鶏舎を数棟保有)を訪問した。基準表の保持状況、記帳状況、そして内部の環境を視察する。つつきを刺激するため、コンパクトベイルの乾草、フットボール、CD、ペットボトルなどが鶏舎内に設置されていた。次いで、処理施設を見学する。輸送ケージも過密ではなく、内部のニワトリはおとなしい。気絶方法は水につける電気気絶法を採用し、気絶効率は99.9%であるという。電気気絶法はウェルフェア上問題にされているが、水につける長さ、深さなどの工夫で確実性は高まるという。しかし消費者はガス気絶法を望むので、来年にはそれも採用する予定であるという。さらに出荷直前のブロイラー農家(8500羽/鶏舎を数棟保有)を見学した。急成長に伴うウェルフェア問題を解消すべく49日齢2kg出荷である。ホコリ環境は少し悪いが、ニワトリはとてもおとなしく、人懐こい。つつき遊具もよく利用している様子であった。床の状態はもとよりニワトリの胸の状態、脚の状態も極めてよい。死亡率は0.5〜1%であった。
(2)The Food Animal Initiative (FAI)
FAIは1988年に実際の畜産を経験し、アニマルウェルフェア科学、倫理、法律を知る農業者と獣医によって設立され、2001年にOxford大学の農場に足場を置いた。FAIはアニマルウェルフェア任意団体のCIWFとその連合体のWSPA、農業者団体のNFU(National Farmers Union)とMLC(Meat and Livestock Commission)、小売業のMcDonaldとTESCOからの資金的サポートを受けている。FAIの目的は、家畜、ヒト(生産者と消費者)、環境の要求に考慮し、それを包含する畜産システムを展開し、展示することである。集約化は捕食者からの解放、餌の充足、病気・怪我の世話といった点ではウェルフェアの改善に役立ったが、病気の増加、行き過ぎた遺伝的改良、正常行動発現の阻害といった点でウェルフェアを阻害しているという視点である。
4つのポイントがあり、それは?家畜の祖先種の生活を認識すること(要求はほとんど同じ)、?アニマルウェルア科学・動物行動学の利用、?ヒトと生産システムを考慮する(実際的であること)、?消費者の要請を理解する(質の高いフードチェーンの核となる要素としてアニマルウェルフェアを推進する)である。
専門理事会には、大学からは理事長、専門理事としてAnimal Behaviour、Food Safety, Farmed Ecologyの4教授、一般理事としてFAIの役員、TESCO、McDonalds、RSPCAが入っている。FAIの役員は5人からなり、3人は常勤、2人は非常勤である。FAIがこのような共同を必要とする理由は、農業者はウェルフェアシステムの構築を希望しているが、研究者はそのノウハウを知っており、消費者の意向と売るすべは小売業者が知っており、一般大衆の意向はNGOが知っているとの認識からである。
10人の技術職員を雇用しており、彼らは17〜44歳と若く、旧来の技術にとらわれないように農業への参加が1年目の人材を採用しているという。
420haの敷地を持ち、157haの永年草地、160ha強の氾濫原(補助金アリ)を持ち、250頭の肥育豚、1000頭のヒツジ、300頭の肥育牛、120頭の肉用繁殖牛、2万羽のブロイラー、4500羽のレイヤー、3000羽の七面鳥を飼育している。域内的にはEuropean Farmers Networkとの共同、域外的には中国とブラジルでのモデル農業プロジェクトに参加している。様々な飼育技術関連プロジェクトを遂行しており、材料はFAIが提供している。大学に材料を貸す場合もあるが、レンタル料は支払っていない。しかし、生産以外の目的で使われる材料には研究費の投入がある。オープンデイ、メディアでの宣伝、農業者教育、企業への説明、NGOや企業との契約、農業後継者教育、学生教育に貢献している。
大学のメリットは、赤字から黒字(借地料80,000ポンド/年)に転じたこと、実規模レベルの現場研究が実行できること、小売業者との直接対話、である。学部学生の実習、卒論研究、PhD研究に無償で使っている。経営として成立するアニマルウェルフェア生産システムが存在し、その改良が大学の協力の下で展開されている状況がEU行動計画の基盤となっている。